ペットショップさんやブリーダーさんを介したり、お知り合いのお宅の犬が出産したりして、子犬を家に迎えることになったときには、ほんとうにワクワクしますね。
無邪気な寝顔をみていると、「かけがえのないこの子が健やかに育ちますように」と、祈りたくなるような気持ちになります。
子犬の健康を守るため、私たちに何ができるのでしょうか。そして、どんなことに気を付ければ良いのでしょうか。
お迎えしたときの家での注意点
1.遊ばせすぎない
目にするもの、耳にするもの、新しい家の何もかもが興味深くて、「もっと遊んで」という子犬のアピールには疲れて しまいますね。このようなエネルギーの塊のような子犬ですが、体調管理と健やかな成長のためには、「遊ばせすぎない」、「構いすぎない」ことが、たいへん重要です。
育ち盛りでもある子犬期は、20時間程度寝ていても良いといわれる時期ですし、お迎えになられてから1か月間くらいは 環境の変化が大きいので、免疫力が下がり、下痢をするなど、体調を崩す子犬が多くみられます。しっかりと睡眠をとらせてあげるようにしましょう。「遊んで」と騒いでいても、知らん顔していてくださいね。毛布やタオルケットなどでサークルやケージに覆いをしておくと、いつの間にかスヤスヤと可愛い寝顔をみせてくれるかもしれません。
2.行動スペースには、口に入れて困るものは置かない
生後3か月頃には乳歯が生えそろい、生後8ヶ月頃になると永久歯が生えそろいます。子犬の口の中はむず痒くて、「何だか分からないけど、噛みたい時期」が続きます。この時期は好奇心も旺盛ですので、落ちているものを何でも口にしてしまい、命の危険を伴う誤飲事故の発生が多くみられます。子犬は、靴下、紐、電気コード、人の薬をシートごと・・・・、私たちには考え及ばないようなものでも口にしてしまいます。子犬を遊ばせるスペースには、口に入れて困るものは 置かないようにしましょう。
飼い主さんの力は大きい!
1.「いつもと違う」を見逃さない
「食欲は変わりないか」、「どんなウンチが出たか」、「元気があるか」、「体重が増えているか」など、子犬の状態を把握し、記録する習慣を付けておくと、子犬の体調に変化がみられたとき、正確に獣医師さんに伝えることができるので、お勧めです。
子犬の体の状態を把握するためには、体を触られることに慣らしておくことが大切ですが、「人の手が怖い」という経験をしてしまうと、なかなか体を触らせてくれなくなってしまいます。
「人の手は、いいなあ」と子犬が感じるように 優しく声をかけながら接するようにしましょう。
2.動物病院さんのイメージを良くする
子犬が「動物病院さんは楽しい」というイメージを抱くように心がけていただくことが重要です。
飼い主さんの緊張感は子犬にも伝わりますので、動物病院さんでは、飼い主さんがなるべくリラックスをしていただき、余裕がありそうな、親しそうな雰囲気で、動物病院のスタッフの方とお話をなさると良いでしょう。
動物病院さんにいらっしゃるときには、子犬のお気に入りのオモチャやご褒美のためのオヤツをご持参いただいても良いですね。ご通院のときだけではなく、散歩の途中などに普段から気楽に立ち寄り、動物病院さんを、「馴染みの場所」、「いつも優しく声をかけてもらえる場所」だと感じさせあげてもよろしいでしょう。
健康管理プログラムについて
1.検便について
お腹の中に寄生するムシが原因で軟便や下痢、血便がみられることもありますが、見た目には「いいウンチ」であっても犬のお腹の中にムシが寄生していることもあります。寄生虫の中には人に感染するものもあります。犬の成長が一段落してからも油断せず、定期的に検便・駆虫をしましょう。
◇検便サイクルの目安
子犬のとき・・・・3〜4週間おきに3回程度
成犬になったら・・・年1回程度(よく外に行く犬は3ヶ月おき程度)
◇犬にみられる寄生虫疾患
・犬回虫症 ・犬鉤虫症 ・犬条虫症 ・コクシジウム症 ・ジアルジア症 ・トリコモナス症など
◇お腹のムシはどこから来るの?
(1)お腹にムシがいる他の犬のウンチを口にする。
(例)犬回虫、コクシジウム
(2)母犬から胎盤や母乳を通じて感染する。
(例)犬回虫、犬鉤虫
(3)ノミが媒介して感染する。
(例)犬条虫
犬のお腹に寄生虫がいることは珍しいことではありませんが、子犬期の犬は病気と戦う力がまだ十分身に付いていませんので、早目にチェックをして、駆虫してあげることが重要です。
回復力、免疫力を付けるためにも、しっかりと睡眠や食事をとることが必要です。
2.混合ワクチン接種について
犬のかかる怖い伝染病の多くは、ワクチンをきちんと接種することで予防できます。
◇混合ワクチンで予防できる病気
・犬ジステンパー・犬パルボウイルス感染症・犬伝染性肝炎
・犬アデノウイルス2型感染症・犬パラインフルエンザ・犬ボルデテラ感染症・犬コロナウイルス感染症
・犬レプトスピラ病(黄疸出血型)・犬レプトスピラ病(カニコーラ型)・犬レプトスピラ病(ヘブドマディス型)
犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎のワクチンは「コアワクチン」と呼ばれ、接種にあたり、重要度が高く、予防の核になるものだと考えられています。コアワクチン以外のものは、地域性や犬の健康状態、生活環境などの状況により選択されることが多いようです。
子犬に多くみられるケンネルコフは、細菌やウイルスなど複数の病原体の感染によって起こる、伝染性の強い呼吸器疾患の総称です。このケンネルコフの原因となる代表的な病原体が、犬パラインフルエンザウイルス、犬アデノウイルス2型、犬ボルデテラです。
◇ワクチン接種時の注意
1.体調の良いときに接種しましょう。
2.必ず検便をして、お腹にムシがいないことを確認してから接種しましょう。
3.時間に余裕がある日を選び、なるべく午前中のうちに接種しましょう。
4.接種後は、なるべく静かに過ごさせてあげましょう。
5.接種後のシャンプーは控えましょう。
6.接種後に、「食欲や元気がなくなる」、「顔や目がはれる」などの副反応がみられたら、すぐに病院に連絡をしましょう。
◇ワクチン接種の間隔
確実な免疫を付けるために、初めてのワクチンでは複数回(2回または3回)の接種が必要です。
最後のワクチン接種が済むまでは、まだきちんとした抵抗力が付いていません。リードを付けて地面を歩かせたり、知らない犬と接したり、長時間の旅行に行ったりするのは、3回目のワクチン終了後1週間程度経ってからにしましょう。 なお、翌年からは1年に1回追加接種することが多いようです。
◇社会化期との兼ね合いについて
子犬の生後1ヶ月の後半から3ヶ月いっぱいくらいは、犬が環境に興味を持ったり、周囲の人やどうぶつとの社会的な関係を築いたりするのに、一生の中でもっとも適した時期で社会化期といわれています。
また、感受期とも呼ばれることからも分かるように、社会化に高い感受性を持っている時期とされています。
犬が成長していく過程で、社会化期をどのように過ごすかが、その後の性格形成に大きく影響し、この時期にさまざまな良い経験をすることで、将来、外部の変化に対応しやすくなるといわれています。
上述のように、混合ワクチンの接種がまだ完了しておらず、免疫に対する不安がある状態では、地面に直接下ろしたり、 他の犬との濃厚な接触は控えますが、抱っこをしたり、キャリーバッグに入れた状態で、外で楽しい経験をさせてあげることは、むしろ推奨されています。
抱っこしてご近所の方に紹介したり、ベランダから外を見せてあげたり、公園を散策しながら子犬に話かけてあげるのも楽しいですね。たくさんの方に優しく撫でてもらったり、話しかけてもらったりして、人のことが大好きな子犬にしてあげましょう。ただし、くれぐれもリードを付けて地面を歩くお散歩は、獣医師さんのお墨付きが出てからにしましょう。
3.狂犬病の予防接種と市町村への犬の登録について
◇狂犬病ってどんな病気?
狂犬病ウイルスが体内に侵入することで広がる致死的な感染症です。
日本での犬の狂犬病は1956年を最後に発生していませんが、世界的にみれば毎年世界中で5万人以上の人が狂犬病で命を落としています。
日本でも昭和20年代には狂犬病が多発し、昭和24年では76人の人と614頭の犬に発生がみられました。
狂犬病予防法の施行など、先達の苦労の甲斐があり、日本は世界でも数少ない狂犬病が発生していない清浄国の一つですが、グローバル化が進む昨今の世界情勢を鑑みても、狂犬病の侵入を食い止めるためには、これまで以上、予防に対して意識を高めることが必要でしょう。
◇感染する動物
人を含むほとんどすべての哺乳動物に発生します。
◇感染経路
多くは狂犬病にかかった動物に噛まれて、その傷から感染します。飛沫感染もあります。
◇人・動物の症状
やたらに噛みつくなど、攻撃的・狂暴的な神経症状を呈します。また、暗い所に隠れたがる、食欲不振、情緒不安、体中の筋肉の痙攣、よだれを流して運動失調や意識不明の麻痺を起こして死亡します。発病初期から麻痺症状を出し死亡して しまう場合もあります。発症から死亡までの日数は一般的には1週間から2週間くらいです。
なお、狂犬病に感染しても、直ちにワクチン接種と免疫血清の投与を行うことで発病を防ぐことができる場合もあります。
◇予防
予防注射以外にありません。
また、狂犬病常在地域に入るときは、犬などのどうぶつに噛まれないなど、十分に注意をします。
◇「狂犬病予防法」について
狂犬病の予防注射・登録は「狂犬病予防法」という法律で義務付けられています。
【狂犬病予防法】
第二章
第四条 (登録)
犬の所有者は、犬を取得した日(生後九十日以内の犬を取得した場合にあっては、生後九十日を経過した日)から三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、その犬の所在地を管轄する市町村長(特別区にあっては、区長。以下同じ。)に犬の登録を申請しなければならない。ただし、この条の規定により登録を受けた犬については、この限りでない。
第五条 (予防注射)
犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。
4.フィラリア症予防について
◇フィラリア症とは
フィラリア症は蚊によって媒介される寄生虫感染症です。犬に多い病気ですが、猫、フェレット、人にも感染します。
◇フィラリアってどんな虫?
フィラリアは日本名では犬糸状虫といい、そうめんのような糸状の寄生虫です。大きいものでは約30cm にも達します。 寄生する場所はおもに肺動脈と心臓です。100匹以上感染することもあり、5〜6年間寄生し続けます。
◇フィラリア症の症状は?
おもな症状は、咳、運動に耐えられなくなる(運動不耐性)、貧血、お腹に水がたまる、足のむくみ、血を吐く、肺に水がたまる、体重減少などです。
◇犬フィラリア症の対策は?
犬フィラリア症は薬や外科手術で治療することができますが、いずれの場合も危険を伴うため、予防することが最も安全な対策です。正しい予防方法を理解して正しく行なっていれば、フィラリア症はほぼ100%防げます。
◇予防の時期について
フィラリアの予防薬は、1ヶ月に1回薬を与えて、蚊に刺されることにより犬の体内に入った感染幼虫(第3期幼虫)をまとめて殺すので、予防というよりは駆虫という形をとります。したがって、予防薬(駆虫薬)は、蚊が出始めた1ヶ月後 から蚊がいなくなった1ヶ月後まで、毎月1回飲ませます。
犬がフィラリア成虫にすでに感染しており、その仔虫(ミクロフィラリア)が犬の血液中を流れている状態で予防薬を投与すると、薬の作用で死んだミクロフィラリアが犬の血管に詰まりショック症状を起こすことがあります。このような状態を避けるため、毎年1回、最初の予防薬を飲む前に血液検査を行い、前年度の予防がきちんとできている ことを確認してから投薬を行います。
ただし前年の蚊の発生している時期にまだ生まれておらず、フィラリアに感染している可能性のない子犬は、初年度は検査なしで投薬を始めることができます。
◇フィラリア予防薬のいろいろ
錠剤タイプ、ジャーキータイプ、皮膚に直接滴下するスポットタイプ、注射薬(※)などがあります。
※注射薬については、1年に1回の接種となります。
5.ノミ・マダニ予防について
◇ノミに寄生されると・・
1.激しい痒みによるストレスやアレルギー性皮膚炎を引き起こすことがある。
2.刺された場所をかきむしり、細菌感染を起こす。
3.サナダムシ(犬条虫)を媒介する。
4.大量に寄生されると貧血になる。
◇マダニに寄生されると・・・
1.大量に寄生されると貧血になる。
2.皮膚の細菌感染、アレルギーを引き起こすことがある。
3.バベシア症、ライム病、Q熱、その他多くの病原体を媒介する。
◇ノミ・マダニの予防薬のいろいろ
毎月1回背中に垂らすスポットオンタイプやスプレータイプ、錠剤タイプのお薬があります。
6.成長段階に適した食事について
子犬期の犬は成長が著しく、成犬の体重の半分になるのが、小型犬や中型犬では生後4ヶ月頃、大型犬では生後5ヶ月頃が目安です。子犬期には、成長と健康の維持に適した特別な栄養とカロリーが必要です。
「総合栄養食」と表示されており、かつ幼犬用の食事(グロース、パピー用)を与えるようにしましょう。
一方で、幼犬用の食事に栄養のバランスを崩すほど過度に栄養剤等を加えることは、骨格の健康な成長を阻むなどの問題が生じることが指摘されています。特に必要以上にカルシウムを与えることは控えるようにしましょう。
月齢や犬種などにあった食事量の目安はドッグフードが入っている袋に印刷されています。この目安量を参考に与えましょう。
◇いつまでふやかすの?
犬の乳歯は、個体差がありますが生後2〜3か月くらいで生えそろいます。乳歯が生えそろってきたら、徐々にふやかす水の量、ふやかす時間を減らしていきます。子犬が「急に変わったね」と戸惑わないように、数日かけて減らしていくようにしましょう。
◇食事の回数と与え方
2〜3か月くらいの子犬の時期は、消化器官の発達も十分ではなく、胃腸の負担をかけないようにしてあげるため、1日4回以上に分けて与えていただいたほうがよろしいでしょう。月齢が進むにつれて1日2回食くらいまで回数を減らしていくことが多いでしょう。このときも急に減らすのではなく、食べ方やウンチの調子など様子を見ながら1週間くらいかけて徐々に変更するようにしましょう。
◇食事を出したままにしない
食事は出したままにしておくと、栄養価も味も低下してしまいます。与える量を決めて、食べ残した分は20分程度を目安に片付けてしまうようにしましょう。
7.お手入れに慣れさせるために
外耳道炎、皮膚炎、歯肉炎などは、犬の病気としてよくみられます。これらの病気を予防するためにも、無理のない程度に小さいころからお耳や口、目の周りを触られることに慣らすようにしましょう。
◇嫌な思いをさせない
痛い、怖いというような嫌な思いをさせるのではなく、触った後に、優しく褒めたり、フードやおやつを与えたりするなど、触られることと子犬にとって嬉しいことを結びつけながら、少しずつ慣らしていくようにしましょう。
◇嫌がるからといって止めない
嫌がって暴れたり噛み付いてきたりしたからといって止めてしまうと、「暴れれば止めてもらえる」ということを学習してしまいます。「犬が嫌がる前に、飼い主さんのペースで止めること」が重要です。"
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