我が家にやってきてくれた愛しいこの子と過ごせる時間はきらきらと輝いていて、出会えたことを神様に感謝したくなりますね。ところが、ワンちゃんやネコちゃんたちは時の流れを人の5倍ほどの速さで経験していて、寿命は人より短い、ということがずっしりと胸に響く日がやってきてしまいます。
いちばん考えたくないことですが、命の終着駅に至る道を、最後の力を振り絞り歩く我が子をしっかりと支え、虹の橋へ送り出す日を避けることはできません。
今月はお別れの日まで少しでも心安らかに過ごすための飼育管理、ターミナルケアについてご案内します。
ターミナルケア(終末期医療)とは
ターミナルケア(終末期医療)とは、おもに末期のがんなど、治すことのできない病気の患者さんが、病気を完治させることではなく、「身体的な痛みや辛さを和らげたり、精神的な不安を取り除いたりすること」を目的に、毎日の生活を少しでも穏やかに過ごせるように行われるケアのことです。
人の医学で用いられる「緩和ケア」とは、がんなどの病気にかかったときの身体的、精神的な辛さを和らげるためのケアのことをいい、病気の積極的な治療と並行しても行われます。
ターミナルケアは緩和ケアの中に含まれるもので、特に末期の患者さんに対するケアのことを 指します。動物医療の現場では、特に「緩和ケア」や「ターミナルケア」という言葉を意識的に区別して使ってはいませんが、できるだけ穏やかに日常生活が送れるようにサポートすることを目的としている点では同じです。
どうぶつのQOLとは
QOLとは、クオリティー・オブ・ライフ(quality of life)の頭文字をとった略語で、日本語では一般的に「生活の質」と訳されます。人のターミナルケアではQOLを重視して、病気による痛みや苦痛をできるだけ取り除くことに加えて、残された時間をできるだけ充実したその人らしい生活を送れるようにすることを目的とします。
目的とすることはどうぶつたちのターミナルケアも同様で、最後まで穏やかに、その子らしい 充実した生活を送れるよう手助けすることを第一に考えます。
「その子らしい生活」というのは、それぞれのどうぶつによって異なると思います。お散歩が好きな子、飼い主さんと遊ぶことが好きな子、飼い主さんの膝の上でゴロゴロすることが好きな子、日なたぼっこが好きな子、自分のケージの中でゆったりすることが好きな子、いろいろな人やどうぶつと触れ合うのが好きな子など、どのような生活を我が子が望んでいるかを一番よく分かっているのはご家族だと思います。我が子らしい生活を出来る限り続けるためには、どのようなサポートができるかを、主治医の先生や動物病院のスタッフの方とよく相談しながら進めていきましょう。
ターミナルケアという選択をするとき
愛する我が子が治すことが難しい病気にかかったとき、あるいは、様々な治療を続けてきて、これ以上の治癒が見込めないことが分かったとき、高齢で積極的な病気の治療に耐えられないと 判断されたときなど、ターミナルケアを意識して始める場面は様々です。しかしターミナルケアで行う医療行為やお家でのケア、ターミナル期を過ごすときの心構えは、命に限りのあるどうぶつと共に暮らす上で、いつでもどの段階であっても必要なことで、特別なことではありません。ターミナルケアで行う実際の治療やケア(緩和ケア)は、様々な病気の積極的な治療(完治を目指す治療)と並行しても行われるものです。ターミナルケアを行うからといって、積極的な治療を行うことができなくなる訳ではありませんし、ターミナルケアを選択することがどうぶつの命を見捨てることになる訳でも決してありません。ターミナルケアは、愛する我が子との残された日々を充実した穏やかなものにするためのケアと考えていただけるとよいと思います。
ターミナルケアを行う場所
病院外での病気の管理が難しい場合(持続的な静脈点滴が必要だったり、発作の管理が自宅で難しい場合など)や、ご家族がご自宅で介護することが難しい場合などには、病院で入院あるいは日帰り入院の形で行われます。それ以外の場合には、住み慣れた自宅で飼い主さんがケアを行うことが一般的です。自宅で介護する場合でも、痛みや苦痛を緩和する治療行為などの医学的なサポートについては主治医の先生の指示で行うことになりますし、介護の仕方やターミナル期の生活上のケアについては動物病院の看護師さんなどのスタッフの方がよくご存じで、相談に乗ってくださるでしょう。介護するご家族の負担が大きくなりがちなどうぶつのターミナルケアですが、なるべくご家族だけで抱え込まず、信頼できるかかりつけの動物病院さんとよくコミュニケーションを取りながら進めていくことが、たいへん重要です。
コメント欄は経験談、同じ病気で闘病中等、飼い主様同士のコミュニケーションにご利用ください!
記事へのご意見・ご感想もお待ちしております。