わが子の愛らしい寝顔を見つめながら、「ずっと健康でいてほしい」と祈るような気持ちでつぶやいた経験のある飼い主さんも多いのではないでしょうか。一方で、体質や遺伝が原因となったり、加齢に伴って起こる病気もあり、予防や完治が難しい病気もたくさんあります。
我が家のどうぶつが病気になったとき、少しでも良い状態で過ごせるよう、しっかりと支えてあげたいですね。そのためには、動物病院での処置や治療はもちろん大切ですが、食生活などの普段の生活環境が重要な役割を果たします。
そこでお世話をされる飼い主さんとどうぶつが、病気と上手くつきあうために大切なことを紹介いたします。
今回は心臓病の犬、猫についてです。
ひとことで心臓病と言っても、いろいろなタイプの病気がありますが、残念ながらその多くは内科的療法で完治する病気ではなく、また徐々に進行していきます。しかし、早期に発見し治療を開始することで、病気の進行をゆっくりにし、犬や猫が快適に生活できる時間を長くしてあげることは可能です。
そのためには、日常生活の中のちょっとした配慮が大切です。
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【僧帽弁閉鎖不全症】
僧帽弁閉鎖不全症は老齢の小型犬での発症が多い心臓の病気で、特にマルチーズ、ヨークシャー・テリア、
シー・ズー、キャバリアなどの犬種に多くみられます。
僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間に位置し、血液を送り出すため開いたり閉じたりして血液の逆流を防ぐ働きをしています。何らかの原因でこの弁が変性し、完全に閉じなくなるのが僧帽弁閉鎖不全症です。
左心室から左心房へ血液が逆流するので、体の各組織で必要とするだけの血液の循環や維持ができなくなり、組織にうっ血や低酸素状態が起きてしまいます。このような循環不全が起こるため、さまざまな症状が引き起こされます。
初期段階では症状がなく、動物病院での診察の際に聴診で心雑音が聴取され気づくことが多いようです。僧帽弁閉鎖不全症では、心臓が収縮する際に血液が逆流する音が聴かれます。進行すると運動する事を嫌がったり、ゼーゼーといった喉につかえるような咳をしたり、激しい運動や興奮時に倒れたりするといった症状がみられることがあります。さらに重症になると、肺に水がたまる(肺水腫)、呼吸困難を起こす、舌の色が紫色になる(チアノーゼ)などの症状を起こし、死に至る場合もあります。
症状や重症度によって治療法は異なりますが、心臓の負担を減らすための血管拡張薬や利尿剤の使用が治療の主体となります。また、心臓の収縮力を高めるための強心薬や咳の症状に対する気管支拡張薬の投与、症状に応じて抗生物質の投与や酸素吸入なども行います。なお、限られた施設ではありますが、外科的治療も行われています。
【心筋症】
心筋症は、心臓を構成する筋肉である心筋が何らかの原因によって通常よりも厚くなる、あるいは薄くなるというような異常を起こし、心臓の働きが弱くなる病気です。心筋症は、大きく「拡張型心筋症」、「肥大型心筋症」、「拘束型心筋症」の3つに分けられます。犬では「拡張型心筋症」が、猫では「肥大型心筋症」が多く見られます。
拡張型心筋症は心筋が薄く伸びてしまい、収縮力が弱まることから血液の循環不全を起こします。ドーベルマン、グレート・デン、ボクサー、セント・バーナードなどの大型・超大型犬種で多く、中型犬ではアメリカン・コッカー・スパニエルなどのスパニエル種で発症しやすいことが知られています。また、女の子より男の子に多くみられます。遺伝性の要因のある病気だと考えられてはいますが、はっきりとした原因は不明です。なお、アメリカン・コッカー・スパニエルなどでは、タウリンとL−カルニチン不足といった栄養性の原因も疑われています。
猫ではシャムネコやアビシニアンに多いといわれています。猫では、食事中のタウリンの不足も原因の一つであるといわれています。犬に比べて、猫は一般的に体内でタウリンを合成する能力が低い上、タウリンを多く使うため、食事からタウリンを摂取できるようにしてあげることが重要です。なお、猫用に作られたフード(総合栄養食)には健康維持のために必要な量のタウリンがきちんと含まれているので安心です。
肥大型心筋症は心筋が厚くなり、心臓の内腔が狭くなります。これに伴い心臓が強く拍動できず血液の循環不全を起こします。猫に多くみられる心臓疾患で、特にペルシャ、ヒマラヤン、メイン・クーン、アメリカン・ショートヘアにみられる傾向があります。犬では稀ですが、ジャーマン・シェパードやドーベルマンなどで報告があります。発症の原因は不明です。
拘束型心筋症は、心臓の内部を覆う筋肉などの組織が変形し、繊維質の膜が厚くなり心臓が十分に広がらなくなる状態をいいます。老齢の猫で稀にみられますが、発症の原因ははっきり分かっていません。
他の心臓病と同様、心筋症でも元気消失、食欲低下、体重減少、運動を嫌がるなどの症状がみられます。循環不全によって肺に水がたまり(肺水腫)、咳が出たり呼吸困難を起こしたりすることがあります。胸水・腹水がたまることもあり、中には失神したり、突然、亡くなってしまったりするケースもみられます。また、心筋症は心臓の収縮不全を起こすので心臓の中に血の塊(血栓)が出来やすくなり、血流によって血栓が後足の根元の血管に詰まることが多く、この場合、後足が麻痺します。この状態を血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)といいます。血栓塞栓症では痛みを伴うことも多く、その際は前足だけで体を引きずって移動します。血栓が詰まってしまうとショック症状を起こし死に至るケースもあるため、早急な治療が必要です。
心筋症そのものの治療は出来ませんが、症状に合わせた治療を行います。例えば、肺水腫をおこしているときには利尿剤を投与しますし、循環不全を解消するためには血管拡張薬や強心剤などを用います。
この他にも、不整脈が頻発する場合には抗不整脈薬を用いたり、胸水や腹水の貯留がみられるときには水を抜く処置をしたりすることもあります。血栓の症状が起こっている場合には、外科的処置や血栓を溶かす薬を使用して出来るだけ早く血栓を取り除きます。いずれの処置も緊急を要する場合も多く、症状が重度の場合や治療が遅れた場合には死に至ることも少なくありません。
看護のポイント1 食事
【肥満に注意】
肥満は心臓に負担をかけるので注意が必要です。本来は、よく食べ、よく運動して適正体重を維持するのが理想ですが、運動制限をしなければならない状況では、適正体重を維持するためにカロリーの制限をせざるを得ない場合もあります。まめに体重測定と筋肉量のチェックを行うことが大切です。ただし、必要以上に体重を落とすことは基礎体力を落とし、抵抗力をなくしてしまいますので注意をしましょう。
【塩分に注意】
塩分の高い食事も心臓の負担を増やすことが知られています。おやつを含め、全般的に食事内容を見直して適切な食事を心がけましょう。心臓に疾患を持つ犬や猫専用の療法食(低ナトリウム食)などを利用することもできますので、かかりつけの先生とご相談いただくとよろしいでしょう。なお、人の食べ物の中には、パンやウインナー類、ハンペンやカマボコなどの練り物など、塩味をそれほど感じなくても塩分を多く含んでいるものがあります。食べ物をどうぶつの手が届くところに置かないように注意をしましょう。また、心臓病の進行度合いによっては必要以上の塩分制限は望ましくない場合もありますので、ステージに合わせた食事選びが大切です。
看護のポイント2 投薬について
心臓病で処方される薬は心臓自体を治すための薬ではありませんが、心臓にかかる負担を減らすことで病気の進行を抑え、さまざまな辛い症状を抑えるためには、とても大切なものです。心臓の薬を途中で止めてしまうと、一気に心臓に負荷がかかって状態が悪化してしまう可能性があります。薬は必ず指示通りにきちんと飲ませるようにしましょう。
また、飼い主さんに急用ができてしまい、いつも飲んでいる心臓薬を動物病院に取りに行くことができなくなってしまったり、災害が起こって薬が手に入らなくなってしまったりしたときなど、緊急時のために、普段から予備薬として数日分の薬を手元に用意しておくと安心です。
「飲ませると吐きだしてしまう」、「飲ませるたびに大暴れで大変!」など、投薬が難しい場合はかかりつけの先生にご相談ください。投薬は毎日、そして一生続くものですから、飲ませる飼い主さんと飲むどうぶつの双方にとって、できる限り負担のかからない方法で投薬できるようにするのが一番です。心臓病の薬にもいろいろな種類や剤型がありますし、飲ませ方の工夫もいろいろあります。かかりつけの先生にご相談をいただき、その中から最も良い方法を選択するようにしましょう。
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看護のポイント3 運動について
激しい運動や必要以上の運動は、心臓に大きな負担をかけますので避けるようにしましょう。激しく興奮したり吠えたりすることも同様です。
一方で、運動不足は体力・筋力の低下や肥満の原因になりますので、心臓の悪いどうぶつでも、適度な運動は必要です。特に、お散歩好きの犬の場合、お散歩に行けないことがストレスにつながることもあります。気温や天候に気をつけて、犬の状態をよく見ながら、負担にならない程度のお散歩は続けてあげましょう。しかしながら、運動後ぐったりする、咳込むなどの様子が見られる場合には運動が負担になっている可能性もありますので、かかりつけの先生にご相談ください。
看護のポイント4 生活環境について
暑さ、寒さは心臓への負担を大きくします。一般的には冬の寒さ・乾燥よりも、夏場の暑さ・蒸した天候の方が心臓の悪いどうぶつにとっては負担が大きいようです。エアコンなどを上手くご利用いただき、温度や湿度管理には十分注意をしてあげましょう。犬種や育った環境等の要因により個体差がありますが、一般的に犬の快適な温度は15〜23度くらい、猫の場合は25度くらい、湿度は犬と猫共に50〜60%くらいだといわれています。
犬や猫は、人間とは異なり発汗による体温調節が難しく、暑い時期など犬が「ハアハア」と口で呼吸をしているところをよく目にしますが、この呼吸による体温調節がパンティングです。犬がパンティングをしない程度に、ご家族が快適に感じる程度に、温度や湿度を調節していただくとよろしいでしょう。
犬や猫が、自分で快適な温度の場所に移動することができる環境を作っておくことも大切です。「寒い時期には、寝床に湯たんぽをタオルでくるんでおいたり、毛布を入れておいたりする」、「ホットカーペットの半面はスイッチを入れないようにして体を冷やせるようにしておく」など、気を付けてあげるとよろしいでしょう。
また、室内外の温度差も血圧の急激な変動を起こしますので心臓に負担がかかります。特に冬場のお散歩時など、暖房の効いた部屋から急に寒い外に出るときには注意が必要です。暖房のそれほど効いていない玄関先などで寒さに体を慣らしてあげてから外に出るようにすると良いでしょう。
病気が進行してくると、お住まいの地域の夏場や冬場の環境によっては、お散歩に連れ出すことが難しくなってくることもあります。そのような状況になったときのため、外でしかオシッコやウンチをしない犬も、お家の中のトイレでも排泄ができるように慣らしておくことが望ましいでしょう。ご家族の出入りの少ない落ち着いた場所にトイレを用意したり、以前トイレのあった場所にもう一度用意していただいたりして、お散歩にいらっしゃる前やオシッコやウンチがたまっているタイミングでトイレに誘導してみましょう。「トイレはここよ」などと、いつも排泄時にされる声がけを優しくなさってはいかがでしょうか。偶然でも良いので、トイレでオシッコやウンチをしたら褒めてあげ、「ここでしてもいいんだよ」ということを教えてあげましょう。「まずは試してみよう」くらいのリラックスした雰囲気でなさるのがポイントです。
看護のポイント5 シャンプーについて
心臓の悪い犬で問題となるのがトリミングやシャンプーです。特にシャンプーは湿度が高い場所で、熱い蒸気を吸い込むことが多くなってしまいます。また、長時間立ちっぱなしを強いられることもありますので、シャンプーやトリミング後に具合の悪くなる犬が多く見られます。皮膚などに問題がないのであれば、極力シャンプーはお避けいただき、どうしても必要な場合は、水のいらない拭き取り式のシャンプーをご利用いただいたり、なるべく温度の低いぬるま湯(25度前後)で手早くシャンプーをし、換気に気をつけて、なるべく蒸気を吸わせないようにしていただくなどの工夫が必要です。一度に全身をシャンプーするのではなく、必要な場所だけ部分的に洗ってあげるのも犬に負担をかけない工夫の一つです。
シャンプーやトリミングがどうしても必要な場合は、事前の健康チェックをきちんと行い、心臓の悪い犬のシャンプーやトリミングについてもご理解があり、適切に対応してくれるサロンや病院に併設されたサロンなどにお願いされることをお勧めします。
看護のポイント6 健康状態の観察ポイントと病院のかかりかた
心臓病の多くは、適切な治療をしていても徐々に進行していきます。薬を飲ませ始めたら、定期的に心臓の状態、病気の進行状態をチェックし、現在行っている治療が適切かどうかを診てもらう必要があります。どのくらいの間隔でチェックしてもらうかについては、病気の状態により異なりますので、かかりつけの先生にご相談ください。
かかりつけの先生に定期的にチェックしていただくことはもちろん大切ですが、日頃どうぶつに接している飼い主さんが我が子の様子をよく観察しておくことは、病気の進行の早期発見のためにもとても重要です。
次に挙げた項目に特にご注意していただき、気になるようなことがあれば、早めに受診するようにしましょう。
□食欲や元気に変化がないか
□咳が出ないか
(喉に何かがつまったような「ヘンッ、ヘンッ」というような咳をすることがある など)
□呼吸の仕方がおかしくないか
(呼吸が早い/遅い/荒い/苦しそう など)
□心拍に問題がないか
(脈拍が早い/遅い/不整脈がある など)
□舌の色に異常がないか(紫がかっている など)
□運動を嫌がらないか
□おしっこは出ているか
□吐き気はないか
□歩き方や後足の様子がおかしくないか(麻痺がみられる/痛がっている様子がみられる など)
また、病気が進行してくると、病院の診療時間外に症状が悪化するということも出てきます。そのような時に落ち着いて対処ができるように、「緊急薬の使用や酸素吸入など、自宅でできる対処法をあらかじめ聞いておく」、「救急で診てもらえる病院を探しておく」などの準備をしておくと安心でしょう。
看護のポイント7 ストレスをためない生活を!
血圧や心臓の機能を支配しているのが自律神経ですが、この自律神経の働きに最も悪影響を及ぼすものが「ストレス」です。心臓が悪いことで、運動や食事など、いろいろな制限が必要なこともあります。そのことが犬や猫にとって、なるべく「ストレス」にならないようにするためは、飼い主さんの接し方、表情がポイントになります。ついつい「可哀想」という表情になってしまいがちですが、犬や猫の目に「こうすることが当たり前」、「これが一番」と映るように接してあげましょう。
飼い主さんがいろいろと気を配ってあげることは、もちろん大切なことですが、犬や猫を不安な気持ちにさせないためには、神経質になりすぎないようにすることも大切です。犬猫の心臓病を管理する上で大切なことは、「幸せに暮らせる時間を少しでも長くしてあげること」、「毎日をできるだけ明るく楽しい気持ちで過ごさせてあげること」です。できるだけ犬や猫がご家族の温かな笑顔に包まれ、幸せを感じられる安静な生活を心がけてあげるようにしましょう。飼い主さんが無理をなさらず、負担にならない程度の看護を続けていくことが大事なのではないでしょうか。
どの病気でもそうですが、病気の治療や看護の仕方にどれが一番良いという方法があるわけではなく、それぞれの子によって、また、それぞれのご家庭によって、最適な方法は変わってきます。「良い」と言われている方法でも我が子には上手くいかないこともあります。「ウチの子には合わない」と感じたら、違った方法に変更してみることも必要です。かかりつけの先生とよく連絡を取り合って、お家の犬や猫が一番快適に生活できる方法を探してあげてください。
また、アニコムでも、心臓病と闘うどうぶつと、支える飼い主さんが少しでも穏やかに暮らせる方法を見つけるお手伝いを一緒にさせていただければと思います。何か迷われることやご不安に感じられることなどがございましたら、ご契約者専用のサービスとはなりますが、「教えてアニコム しつけ・健康編(WEB上での相談窓口)」、あるいは電話での相談を、お気軽にご利用ください。
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お辛いこととお察しいたします。誠に申し訳ございませんが、私どもはねこちゃんの状態を実際に拝見していないため、アドバイスいたしかねてしまいます。みにぃ様ご家族様は、ねこちゃんのためにその時できる最善のことを尽くされたことと存じます。ねこちゃんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
私たち家族は後悔しかなく現状を受け入れることができません。子供のころからよく吐きやすい子でしたがいつも元気だったのになぜなのか、当日朝は腹呼吸意外変わりなくチュールも食べ元気でした。病院でレントゲンや利尿剤注射は適切だったのか、チアノーゼ時の酸素吸入の仕方が直接ではなく間接的で良かったのか、病院に連れて行って良かったのか後悔ばかりです。先生のご意見を聞かせていただけたら幸いです。
マッサージは体の一部のむくみや浮腫などの改善が見込める場合はございますが、それだけで全身性の浮腫や利尿が促進されることは難しい場合が多いと言われています。マッサージをすることで猫ちゃんが落ち着いたり、おだやかに過ごせるようであれば、マッサージをすること自体は体に害はございません。ただ、嫌がるようであれば、痛みなどがあるかもしれませんので、実施前に掛かりつけの先生にご相談お願いします。
すみません、抜いた1リットルは腹水です。胸水はあまり溜まってませんでした。いつもなら身体が軽くなって?翌日食欲戻って良く食べてたのですが、今回は食欲戻らず少し息苦しそうで、心臓が頑張って動かしてるのでしょうか。何か出来ないかと思ってます。