わが子の愛らしい寝顔を見つめながら、「ずっと健康でいてほしい」と祈るような気持ちでつぶやいた経験のある飼い主さんも多いのではないでしょうか。
一方で、体質や遺伝が原因となったり、加齢に伴って起こる病気もあり、予防や完治が難しい病気もたくさんあります。
わが家のどうぶつが病気になったとき、少しでも良い状態で過ごせるよう、しっかりと支えてあげたいですね。
そのためには、動物病院での処置や治療はもちろん大切ですが、食生活などの普段の生活環境が重要な役割を果たします。
そこでお世話をされる飼い主さんとどうぶつが、病気と上手くつきあうために大切なことを紹介いたします。
今回は犬猫に多い「尿石症」です。
尿石症って、どんな病気?
尿石症(尿路結石症)は、尿に含まれるリン、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル成分が結晶化し、腎臓、膀胱、尿道などの泌尿器で結石となるため、さまざまな症状を引き起こす病気です。
結石の形成には、「食事の種類」、「飲水量の減少」、「細菌の尿路感染」、「遺伝的体質」、「肝疾患」などが要因となるのではないかといわれています。
分類方法には、膀胱結石や尿道結石などのように、結石がどこの部位に存在するかで分ける方法と、ストラバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム結石)やシュウ酸カルシウム結石などというように、結晶の成分による分類があります。
尿のpHがアルカリ性に傾くことで結晶化が進むのがストラバイト結石です。
反対に、シュウ酸カルシウム結石は酸性に傾くことで結晶化が進みます。
ストラバイト結石は犬猫ともによくみられ女の子に多い傾向がありますが、ストラバイト以外の結石は男の子に多く認められます。
犬の場合は膀胱炎などの感染に伴うことが多く、猫の場合は感染を伴わないことが多いようです。
感染に伴い、壊死したり、はがれ落ちたりした組織が核となり、結石の形成の原因となったり、尿中の細菌により尿のpHが上昇してストラバイト結石が形成されたりするため、膀胱炎などの感染症の治療は重要です。
ストラバイト結石に続いて、シュウ酸カルシウム結石も多くみられます。
このほかにも比較的まれではありますが、遺伝的な代謝障害が要因の一つではないかとされる尿酸塩結石、シスチン結石、ケイ酸塩結石(シリカ結石)の発生がみられます。
尿酸塩結石にかかりやすい犬種としてダルメシアン、イングリッシュ・ブルドッグがあげられます。
シスチン尿石症はダックスフンド、イングリッシュ・ブルドッグやバセット・ハウンド、アイリッシュ・テリア、ニューファンドランドなどに、ケイ酸塩結石はジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなどにみられる傾向があります。
症状は、頻尿、血尿、発熱、食欲不振、排尿痛などがみられます。
「オシッコにキラキラと光るものがみえる」、「何度もトイレに行くのにオシッコの量が少ない」、「オシッコをするときの格好がいつもと違う」、「オシッコをするときに痛がる」、「陰部を気にする」など、いつもと違う気になる点があったら動物病院の診察を受けましょう。
結石が尿道に詰まってしまい、全く尿が出ない状態(尿道閉塞)になると、血液中の老廃物が体外に排出されずに尿毒症や膀胱破裂を起こしたりする可能性があり、生命に危険が及ぶ状況が生じてしまいます。
治療は、結石溶解や結石形成予防のための食事療法を行ないますが、結石のタイプによっては一度できてしまった石を溶解することができないものもあります。また「血尿がある」、「尿路感染がある」という場合は止血剤や抗生物質の投与など、対症療法を併せて行います。
尿道閉塞の場合は、カテーテルを尿道に挿入する処置などで早急に閉塞の状態を解除する処置が必要となります。
結石のタイプや尿石の大きさや位置によっては外科手術で摘出します。
看護のポイント1 食事
尿石の形成を防ぐためには、食事中の尿石の原因となる成分を極力減らし、尿石が出来にくい体内環境をつくることが必要です。
そのため、尿石症の治療や管理をするにあたって、食事療法がたいへん重要な役割を果たします。
どのような食事が適切かについては、結石の種類によって変わってきます。
1.ストラバイト結石
尿がアルカリ性に傾くと出来やすくなるため、尿を酸性化する食事が勧められます。食事療法で比較的溶解しやすいのが特徴です。また、低リン、低マグネシウムの食事が勧められます。
結石の材料となるアンモニウムの供給をおさえ、尿を濃縮する能力を調整するためにも、タンパク質の制限が有効ですが、どうぶつが成長期の場合などの影響を考慮しつつ、制限を緩やかに、そして長期に及ばないよう注意します。
2.シュウ酸カルシウム結石
尿が酸性に傾くとできやすくなるため、尿をアルカリ化するタンパク質を適度に制限した食事が勧められます。また、過剰なカルシウムやシュウ酸をおさえた食事が勧められます。
3.尿酸塩結石
尿酸塩結石は、肝機能の低下や尿酸の前駆物質であるプリン体(※)の代謝異常に伴ってみられます。尿が酸性に傾くとできやすくなるため、尿をアルカリ化するようにタンパク質を適度に制限した食事が勧められます。また、低プリン体食の給与が勧められます。
※細胞内で遺伝子などとして働くDNAやRNAといった核酸に含まれている物質にプリン塩基(プリン体)があります。このプリン体が代謝されてできた物質が尿酸です。
4.シスチン結石
シスチン結石は、シスチン(※)の先天的な代謝障害に伴って見られます。
シスチンは酸性尿では溶けにくく、アルカリ尿では溶けやすいので、尿をアルカリ化しシスチンの摂取を減らすためにタンパク質を適度に制限した食事が勧められます。また、低ナトリウム食が勧められます。
※シスチンはタンパク質を構成するアミノ酸の一種で、表皮の角質層や爪などの主成分であるケラチンに多く含まれています。
5. シリカ結石
金平糖状の結石を形成します。この結石の主成分は土に含まれるケイ素です。
シリカ結石が出る場合のほとんどで尿のpHは酸性ですので、尿をアルカリ側に傾ける食事が勧められます。また、グルテンや大豆を多く含む食事にもリスクがあると推定されていますので、植物由来のタンパク質を制限した療法食が望ましいとされています。
それぞれの尿石に対応した療法食が各メーカーさんから出されていますので、かかりつけの先生のご指示に従って、結石のタイプに適した療法食を使用するようにしましょう。
オヤツやトッピングなどが原因で食事療法の効果がなかなか表れないこともあります。
基本的には指示された療法食のみを与えるようにし、もしそれ以外のものを与えるときは、必ずかかりつけの先生に相談しましょう。
また、猫の尿石症は、肥満との関連性が指摘されています。
特に男の子の猫の場合、肥満により尿道閉塞が起こりやすくなるとも言われています。定期的に体重を測定しながら、食事量の管理も併せて行いましょう。
看護のポイント2 水分摂取量を増やす
お水をたくさん飲んでオシッコをいっぱい出すことによって、オシッコの中の有害なもの(結晶や細菌など)を希釈(きしゃく)し、膀胱内にオシッコが長い時間留まらないようにすることが理想です。尿石症の管理のためには、十分に水分を摂取させてあげましょう。
水分摂取量を増やすため、次のようなことを試してみましょう。
1.好きなタイプの水を用意する
くみ置きの水が好きな子、新鮮な水が好きな子、蛇口から出る水が好きな子、冷たい水が好きな子、温かい水が好きな子など、飲み水の好みはどうぶつによってさまざまです。いろいろなタイプの飲み水を用意しておき、どのような飲み水を好むかを観察してみましょう。
また、お水の置き場所も重要です。静かな所で飲むのが好きな子、家族の近くで飲むのが好きな子、窓の近くの外が見える場所で飲むのが好きな子など、さまざまですので、いろいろな場所において試してみましょう。飲み水は一か所ではなく数か所に置いた方が、飲水量が増えるというデータもあります。
犬でしたら、水筒にお水を入れ、お散歩時に持参して、休憩を兼ねてこまめにお水を飲む時間をつくるとよいでしょう。
普通のお水をなかなか飲んでくれない場合には、脂身の少ない鶏肉やお魚などを煮出し、脂を取り除いて作ったスープや野菜を煮出して作ったスープ、缶詰やドライフードを少量加えて溶かした状態の水などを飲んでくれる場合もありますので、試してみるのも一つの方法です。
ただし、尿石の種類によって使わない方がよい食材もありますので、必ずかかりつけの先生に確認してからにしてください。
また、飲み水に混ぜて嗜好性をあげるための液体状のサプリメントなどもありますので、動物病院で相談してみてもよいでしょう。
2.フードをドライからウェット(缶詰)に変える
犬を対象にした研究では、ドライフードよりもウェットフードの方が、再発率が6分の1程に低下することが分かっているそうです。
ウェットフードの方が水分摂取量が増加することが要因だと言われています。このことから、猫などの他のどうぶつでも同様のことが推測されます。
ドライフードを水でふやかすことでも飲水量を増やすことができますので、ふやかした状態のお食事を好むようでしたら、試してみましょう。
急な食事の変更がストレスとなる場合もあります。このようなことを防ぐため、「今までの食事に新しい食事を少しずつ加えながら、数日かけて徐々に切り替えていく」、「今までのお食事と新しいお食事の二種類を用意して選ばせてあげる」など、工夫をなさるとよろしいでしょう。
看護のポイント3 排尿しやすい環境作り
尿石症を防ぐためには、排尿を我慢させないことも大切です。
水分をたくさんとり、頻繁に排尿することで、膀胱の中を常に洗い流し、尿石が出来にくい状態を保つようにしましょう。
また、排尿したい時にストレスなくすぐにできるように、どうぶつにとって排尿しやすい環境を用意しておきましょう。
【犬の場合】
お家の中のトイレで排泄する犬の場合は、排尿したい時にストレスなくすぐにできているか、トイレの数や場所を見直してみましょう。
一度濡れてしまったシーツを次の排尿の時に踏んでしまい、「気持ちが悪い」という経験をすると、トイレを使うことを避けるようになってしまうこともありますので、できるだけ排尿したらすぐにシーツを交換してあげましょう。
取り替えるのが難しい場合には、トイレを複数箇所に用意する、吸水性のよいシーツを選ぶなど工夫しましょう。
トイレで排尿ができたらほめてあげることで、排尿することによいイメージを持たせてあげてください。
外でしか排尿しない犬の場合には、なるべく頻繁に連れ出してあげ、排尿を促すようにしましょう。
悪天候の場合や体調不良の場合などを考えると、お家の中のトイレでも排尿できるように訓練しておくことは、この先役に立つかもしれません。
成犬になってからのトレーニングは時間がかかることもありますが、偶然でも上手くできたらほめてあげることで、「お家の中のトイレでしてもいいんだよ」ということを、根気強く教えてあげましょう。
お外での排尿時にペットシーツを利用してみたり、排尿時には「イチ、ニ、イチ、ニ」や「トイレはここよ」などの掛け声をかけてみたりすることで犬の頭の中で、ペットシーツの存在や掛け声と「オシッコやウンチをすること」が結び付き、お家の中のトイレの習慣がつくようになる場合もあります。
お散歩にでかける前に、掛け声をかけながら、お家の中のトイレに誘ってあげるなど、お家の中でも試してみるとよいでしょう。
【猫の場合】
猫はトイレ環境に神経質な子が多いようです。いろいろ試してみて、お家の猫が好むトイレ環境を見つけてあげましょう。
猫によって好みは様々ですが、一般的には次のようなことが推奨されています。
1.トイレの数
最低限、お家にいる猫の数+1個のトイレが必要、そして留守の多いお家ではそれ以上必要だといわれています。
2.トイレの大きさ
猫の体長の1.5倍くらいが好ましいとされています。市販のトイレで良いサイズが見つからない場合は、不要な衣装ケースなどを使うと気に入ってくれることがあります。
3.トイレの種類
屋根や扉がなく開放的なトイレを好む猫が多いようです。
4.トイレの砂
鉱物系、紙砂、木の砂、シリカゲルなどの素材、また、粒の大きさなど、猫によって好みはさまざまです。
初めは数種類の砂を用意して、猫自身に好きな砂を選んでもらうようにするとよいでしょう。
5.トイレの場所
「猫が落ち着いてトイレができる場所にあるか」、「暑さ寒さなどの影響を受けず、どんなときでも入りやすい場所にあるか」など確認をしてみましょう。
6.トイレの掃除や砂の取り換えの回数の見直し
汚れたトイレでの排泄を嫌がり我慢をしてしまう猫もいますので、排泄をしたらすぐに片づけるのが理想です。それが難しい場合は、常にきれいなトイレを利用できるように、複数個のトイレを用意しておくとよいでしょう。
砂の種類にもよりますが、トイレの砂は少なくとも1週間に1度は総取り換えをし、トイレの容器も清潔にしましょう。
※中には、排尿時の痛みの経験の記憶が原因で、今までのトイレでしたがらなくなることもあります。
そのような場合は、心機一転、別の場所に好みのタイプのトイレを用意していただき、その場所で成功体験をさせてあげてはいかがでしょうか。
猫がリラックスしてオシッコができるような雰囲気作りを心がけてみましょう。
看護のポイント4 健康状態の観察ポイント
日頃からこまめに排尿の様子や尿の色、回数、匂いなどをチェックし、尿検査などの定期的な検診を行うことが大切です。いつもと異なったり、気になったりすることがあったら、早めにかかりつけの動物病院に行きましょう。
尿石症のどうぶつで一番心配しなければならないのは、尿石による尿道閉塞でオシッコが出なくなってしまうこと(尿閉)です。特に男の子は女の子に比べて尿道が細く、尿道閉塞のリスクが高いので注意が必要です。尿道閉塞が起こると、腎臓に負担がかかり急性腎不全を起こしたり、膀胱の状態によっては膀胱破裂を起こしたりするリスクが高くなります。
「頻繁にトイレで排尿姿勢をとるのにおしっこが出ていない」、「下腹部がパンパンに張って触ると嫌がる」、「嘔吐し、うずくまって動かない」というような様子がみられたら尿道閉塞の可能性もあり緊急事態かもしれませんので、すぐに受診しましょう。また、夜間や休診日でも診てもらえる病院を日頃から探しておくようにしましょう。
なお、尿石症の適切な治療や対策を行っても再発を繰り返してしまうような場合には、何らかの基礎疾患や、泌尿器系の奇形や形態的異常などがある場合もあります。
それらを確認するためには、レントゲン検査、造影検査、超音波検査、血液検査など、さまざまな精密検査が必要になることもあります。経過を見て、主治医の先生とよく相談しながら治療を続けてあげてください。
➤次ページ 病気と上手く付き合おう(02) <心臓病>
病気と上手く付き合おう記事一覧はこちら
※コメント欄は、同じ病気で闘病中など、飼い主様同士のコミュニケーションにご活用ください!記事へのご意見・ご感想もお待ちしております。
※個別のご相談をいただいても、ご回答にはお時間を頂戴する場合がございます。どうぶつに異常がみられる際は、時間が経つにつれて状態が悪化してしまうこともございますので、お早目にかかりつけの動物病院にご相談ください。
お近くの動物病院をお探しの方はこちらアニコム損保動物病院検索サイト
15才の雄犬がです、以前から膀胱結石がありましたが、慢性腎臓病と僧帽弁閉鎖不全があり結石の食事療法はしていませんでした。2日前から尿から石が出て来る様になり診察してもらい、カテーテルで取れるだけ取って見ますかと言われました。本犬は食欲もあり排尿もできているのでもう少し様子を見てからにするか悩んでいます。高齢、持病ありなのでどうすべきか迷っています。
成長期では、総合的な栄養摂取が重要ですので、成長段階に合わせたフードがおすすめされます。また成長期間後に尿石予防食を検討される場合、様々なメーカーから結石対応の食事が出ていますので、定期的な尿のチェックを実施しワンちゃんの嗜好性や状態に応じて、かかりつけの先生に相談の上フードを選択することをお勧めします。また、こちらでは特定の商品の紹介はいたしかねますこと、ご了承お願いします。
おしっこのキラキラが結晶である場合、採尿方法や尿を検査にかけるまでの時間によっても、結晶成分がうまく検出出来たり、出来なかったりすることがございます。その場合、定期的な尿検査の実施で結晶を確認できることがございます。また、検査では異常ないとのことですので、おしっこにトイレ砂の成分が混ざった可能性もございます。かかりつけの病院にて、今後も定期的な尿検査と身体検査をお勧めいたします。
オシッコのキラキラは検出出来たり出来なかったりするものでしょうか?