人間もどうぶつたちも、食事を通して必要な栄養をしっかりと吸収し、残りの不要な物をウンチとして良い形状で排泄することが、たいへん重要です。我が家のどうぶつの毎日のウンチが良い状態だとホッとしますね。今回は、体の中にある消化器官の大切さを確認するとともに、我が家のどうぶつの体調を把握するチェックポイントをご案内いたします。
食べた物が口から入り、胃を出るまで
どうぶつたちの口の中に入った食べ物は唾液と混ざり合い、ゴクリと飲み込まれて食道に入ります。食道に入った食べ物は、食道の壁から産生される粘液の働きと筋肉の収縮によって胃に送られます。食べた物が食道を通過して胃に送られるまでに要する時間は、犬で4秒から5秒ほど、猫では9秒から12秒ほどだとされています。
胃は袋状をしており、食道に続く入り口部分が噴門(ふんもん)、十二指腸へと移行する出口部分が幽門(ゆうもん)です。胃の主な働きは「食べ物の貯蔵」と「消化の準備」です。
胃では、強酸性の胃酸とタンパク質の分解酵素であるペプシンを主成分とする胃液が分泌されます。胃粘膜から分泌される粘液が胃内部を覆い、加えてプロスタグランジンという生理活性物質(※)が胃粘膜の血流を促進したり細胞を修復したりすることで、強酸性の胃液からどうぶつ自身の胃を守っています。
※ホルモンや神経伝達物質のように、体の機能の調節や活性化などの作用をもたらす物質が生理活性物質です。
胃酸の分泌には次のような事柄が関係しているとされています。
1.食べ物の匂いをかぐことで副交感神経が興奮して、胃酸の分泌が促される
2.胃の中に食べ物が入ることで、胃酸の分泌が促される
3.食べ物が十二指腸に到達したことを感知すると、胃酸の分泌が抑えられる
また、胃液の分泌は、副交感神経から放出されるアセチルコリン、胃の幽門にあるG細胞から血液中に分泌されるガストリン、肥満細胞から放出されるヒスタミンによって調整されます。
胃で軟らかくドロドロな状態になった食べ物は少しずつ小腸に送られ、小腸で本格的な消化・吸収に入ります。
嘔吐と吐出
吐くという症状は、嘔吐と吐出に区別されます。一般的に「ゲボッゲボッ」と何回かお腹を動かすような前段階があってから、胃の内容物または胃液を吐き出すのが嘔吐、吐きたそうな仕草は見られず、食べた物が胃に到達する前に、食道または口から逆流して吐き出されるのが吐出です。
嘔吐のときの吐物は胃酸が含まれており、十二指腸からの逆流もあると胆汁の混じった黄色い色になることもあります。一方、吐出は食道より上部に留まっていた物が戻ってくるので、胃酸が含まれず、吐出されるまでの時間にもよりますが、食べたままの状態であることも粘液状の物が混じった状態であることもあります。
吐出の原因としては、「生まれつき食道が狭い」、「食道炎や異物誤飲などにより食道が傷つき、狭くなっている」、「巨大食道症」、「食道を動かす神経の麻痺」などが挙げられます。
嘔吐は脳幹にある嘔吐中枢が刺激されることにより起こり、胃や腸の疾患、膵臓や腎臓、肝臓、中毒、代謝性疾患、乗り物酔いなど、さまざまな原因が考えられます。
犬の嘔吐の原因の中で比較的よく見られるものに、空腹時の胃酸過多による嘔吐があります。このタイプの嘔吐には、「朝食前などの空腹時に見られる」、「食欲は普通にある」、「吐いた後もケロッとしている」というような特徴があります。吐物は胃液に胆汁が混じった黄色い泡のような液体であることが多く、この場合は、食事の回数を増やすなど、空腹になる時間をなるべく短くすると良いでしょう。
犬や猫は、体の構造上からも「吐きやすいどうぶつ」だといわれ、特に悪いところがなくても吐くことがあります。吐いても1度きりで、その後食欲も元気もあり、下痢、軟便などの症状も伴わなければ様子を見ていただいても良いかもしれません。ただし、続けて吐いたり、吐いた後に調子が悪そうであったりする場合は、なるべく早くかかりつけの獣医師さんに診てもらいましょう。
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小腸に入ってから便として出るまで
本格的な消化と吸収をする臓器である小腸は、胃に近いほうから十二指腸、空腸、回腸と呼ばれます。膵臓からは膵液が、肝臓からは胆汁が、どちらも十二指腸に流れてきます。また十二指腸を含む小腸全域には腸液が流れてきています。これらの消化液の力により、脂肪は脂肪酸とグリセリンに、タンパク質はアミノ酸に、炭水化物は単糖にというように、食べた物がさらに小さな成分へと消化されていきます。
膵液には、「食べ物を分解して体内に吸収しやすい大きさにする」という働きがあり、リパーゼ、アミラーゼ、トリプシンといった消化酵素が含まれています。胆汁は脂肪を水に溶けやすく変え、小腸で吸収しやすくするという働きがあります。ウンチの色が茶色いのはこの胆汁の色の影響です。膵液や胆汁はアルカリ性ですので、胃を通過して十二指腸や小腸に入った内容物のpHは、すぐに酸性から中性へと中和されます。
小腸で栄養を吸収した血液は門脈を通って肝臓に送られます。肝臓では血液の栄養成分の加工と貯蔵、血液中の有害成分の解毒が行われます。その後、血液は肝静脈を経て心臓に戻ります。
栄養が吸収された後の不要な物は、盲腸、結腸、直腸から成る大腸に送られ、水分が吸収され、ウンチが作られ、最終的には肛門から排泄されます。
免疫力アップには腸の健康が重要
腸管にはパイエル板を中心に特別な免疫組織があり、全身の免疫機能を維持するため、たいへん重要な働きをしています。この免疫システムが過剰に反応した状態が食物アレルギーなどのアレルギー症状です。
また、腸内では多様な細菌群が共生しながら一定のバランスがとれた生態系が保たれており、この生態系が腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)です。体調の変化やストレスなどより免疫力が低下し、バランスが崩れると下痢などの症状が見られることがあります。
ウンチをチェックするときのポイント
1.ウンチの回数は、いつもと違わないか
2.しぶり(何回もウンチをしたがる様子)がないか
3.ウンチの1回の量はどうか
4.ウンチの色はどうか
5.ウンチに何か混ざっていないか
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受診の時にわかっていると良いこと
1.ウンチの状態が変わった時期
2.食欲や元気はあるか
3.吐き気はないか
4.熱はないか
5.何か変わった物を食べていないか
◇お家でできる体温の測り方
体温計を太股の付け根にはさんで測ります。
人用の体温計で問題ありません。短時間で測れる電子体温計が便利です。
一般的に39度以上が発熱している状態だと考えられます。元気なときに何回か測ってみて、平熱を調べておくと良いでしょう。
こんなウンチに注意!
◇虫がついている
細長い虫であれば、お腹に回虫、鉤(こう)虫、鞭(べん)虫などの寄生虫がいる可能性が、米粒のような虫であれば、お腹に条虫がいる可能性があります。
駆虫薬を飲ませて駆虫する必要があります。寄生虫の種類によって使う薬が異なりますので、ウンチをラップなどに包み、ウンチを持参して受診してください。
◇表面に血が付いている
直腸や肛門の傷、ポリープや腫瘍のような出来物、大腸炎などが原因で、直腸や肛門などからの出血があると考えられますが、「排便時に肛門が切れた」など、一時的な出血の可能性もあります。
出血が何回も続いたり、発熱、下痢、排便時の痛みなどを伴ってるようであれば、ウンチを持参して受診してください。原因を調べるために検便が必要です。場合によっては、直腸検査(※)をすることもあります。
※診察用の手袋をはめた指に潤滑剤をつけて直腸に指を挿入することで、直腸や前立腺などの状態を調べる検査方法が直腸検査です。
◇黒っぽいウンチ
食道、胃、小腸など上部の消化管から出血があると、ウンチになって出てくるまでに血液が黒くなるため、黒っぽいウンチが出ます。食道、胃、小腸の炎症や潰瘍、腫瘍などが考えられます。
便秘などで排泄までに時間がかかった場合や食事の種類によっても黒っぽいウンチが出ることがあります。
黒っぽいウンチが継続して続いたり、下痢、発熱、嘔吐、体重減少などを伴ったりする場合にはウンチを持参して受診してください。原因を調べるためには検便が必要です。場合によって血液検査やX線造影検査、内視鏡検査をすることもあります。
◇白っぽいウンチ
ウンチに脂肪分が多く含まれていると白っぽく見えます。消化不良を起こしていたり、消化酵素を分泌する機能を持つ膵臓に機能障害があって、食べた物(特に脂肪)の分解ができなくなっていることがあります。このような場合には同時に便量が増えることもあります。
食欲があっても体重が減ってきたり、未消化の便や下痢が見られたら、ウンチを持参して受診してください。原因を調べるためには検便が必要です。また、血液検査などが必要な場合もあります。
◇やわらかいウンチ(マヨネーズくらい)
食欲も元気もあり、発熱や嘔吐などもないようであれば、マヨネーズくらいの固さのウンチは全く問題ありません。ただ、「いつも固めのウンチなのに、急にやわらかくなった」というような場合には、腸炎などの初期症状である場合もあります。
食欲や元気がなかったり、発熱や嘔吐を伴っていたりするようであれば、ウンチを持参して受診してください。
◇水みたいなウンチ(ソースくらい)
いわゆる「下痢」の状態です。小腸、大腸、膵臓、肝臓など、いろいろな臓器の疾患が考えられます。食欲や元気もあり、発熱や嘔吐を伴わない単純な下痢の場合は、食事と水分を控えて安静にするだけで良くなる場合もありますが、元気なようでも、様子を見ているうちに重症になってしまうこともあります。心配な場合は、まずはウンチを持参して受診してください。特に、発熱や嘔吐を伴う場合は、すぐに受診することが望まれます。排便の回数、一回の排便量、ウンチの色や形状を把握することは、原因を特定する手がかりになりますので、よくチェックしておきましょう。
◇ゼリー状のウンチ
ゼリー状のウンチは、大腸の粘膜が炎症を起こして、粘液が混ざったり、はがれた粘膜が混ざったりするために見られます。大腸炎を起こしている可能性があります。大腸性の下痢の場合、しぶり(何回もウンチをしたがる様子)の症状が見られることも多いでしょう。
元気なようでも様子を見ていると重症になってしまう可能性があります。ウンチを持参してなるべく早く受診してください。
◇カチカチのウンチ
便秘や水分摂取が少ないために見られます。猫は、巨大結腸症のような、重い便秘が慢性的に見られる病気にかかりやすいため注意が必要です。また、肛門嚢や前立腺の病気でも便秘をすることがあります。食欲や元気があるようであれば、水分を多めにとらせ、お腹を冷やさないようにして様子を見ることが多いのですが、何日も排便がなかったり、排便時に痛がったり吐いたりするようなら、早めに受診してください。
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ワンちゃんの場合、食べた物が排泄されるまで一般的に12~24時間かかると言われておりますが、食事内容や消化管の動きによって異なるため、いつのご飯が出ているのか特定するのは難しいです。
食事が合わない、細菌・ウイルス・寄生虫感染等による腸炎等で消化不良を起こしている場合は酸っぱい臭いがすることがあるため、軟便や下痢になったり、症状が続くようであればご通院頂くことをおすすめします。
ごはんを食べてから排泄されるまでの時間は、どうぶつさんの種類や健康状態、ごはんの種類などによってさまざまですが、ワンちゃんやネコちゃんではおおよそ半日~2日くらいの時間が必要であると言われております。
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