犬の歴史について
ミトコンドリアDNAの配列によると、犬の祖先はタイリクオオカミだとされ、犬とオオカミが別々の進化を辿るようになったのは10万年ほど前、犬が人に飼われるようになったのは、5千年〜1万年ほど前ではないかといわれています。
日本では縄文文化が始まった頃ですから、人と犬が紡ぎ続けてきた歴史の重みには圧倒されそうですね。
それでは、犬と人とが接近したのにはどんな理由があったのでしょうか。
人が残した食べ物を目当ての犬が人の周辺にいることは、かえって安全であることに人が気付くようになったのでしょうか。
暗闇でも周囲を見渡すことができ、聴覚も嗅覚も高い能力を持つ犬たちが肉食の獣たちから人を守ってくれたからなのでしょうか。
犬は、ある時には人の食べ残しを片付けてくれるお掃除屋さんの役割を担い、またある時には暖かい毛布代わりにもなってくれ、また、恐ろしい獣から守ってくれる・・・こんなことから接近を始め、互いになくてはならない存在になったのかもしれませんね。
いずれにせよ、犬とヒトとは数え切れないほどのドラマを繰り広げ、ともに歴史を刻む大切なパートナーであり続けたのです。
このような人と犬との歴史を紐解いてみると、「お互いがお互いの役に立つ」という存在であったことが分かります。それでは、なぜ数百種類ともいわれるほどの多くの犬種が生まれたのでしょうか。
それは人が犬の能力の多様さを利用し、人の生活の役に立つようにかけ合わせることで、目的に合わせた犬種を作ってきたということにあります。人の生活が変化するにしたがい、犬の役割も多岐に及び、現在では大きな災害が起きたときに活躍する「災害救助犬」、目の不自由な方の生活を助ける「盲導犬」、耳の不自由な方に寄り添う「聴導犬」など、さまざまな場面で目にするようになりました。
これも聴覚、嗅覚、人の心を読み取ろうとする能力の高さなど、犬の有能さがあってこそ、なのでしょう。そして、今の時代が求めているのは、私たちの日々に温もりをくれて、心を潤してくれる家庭犬としての役割を担う犬なのかもしれません。
昔は狩りのお手伝いをしていた犬、重い荷物をひく仕事をしていた犬たちが、今はお家の中で家族の一員となって生活をしているわけですが、犬たちの遺伝子には、かつての記憶がしっかりと姿を留めています。例えば、「多くの仕事をこなすように、高い運動能力を要求されて作られた犬種は日々、十分に運動をさせてあげる必要がある」というように、現在の犬との生活をスムーズなものにするためには、かつてどんな仕事をしていた犬であったかを知ることは大切なことです。
今は同じ屋根の下で生活をしている人と犬ですが、本能も習性も異なる種であることを理解することは大変有益なことなのですね。
犬の種類について
世界には、その他の地域にはあまり知られていないような土着の犬種や非公認の犬種を含めると700〜800の犬種があるといわれています。国際畜犬連盟(FCI)に公認された犬種(2015年1月時点)は343犬種ですが、そのうちジャパンケネルクラブ(JKC)で登録されている犬種数は2015年1月時点で194種です。
犬種の分類方法は幾つかありますが、そのうちの一つをご紹介しましょう。
◇ヒトの狩猟のお手伝いをしてきた犬たち(狩猟犬)
1.優れた視覚を駆使して狩猟をする犬たち(サイトハウンド種)
視力により獲物を発見して、優れた脚力で追跡して居場所をハンターに知らせたり、自ら捕獲したりするタイプの犬たちです。ノアの箱舟に乗ったともいわれる古い歴史を持つアフガンハウンド、地中海東岸の古代文明セレウキアに名前の由来があるともいわれるサルーキーなどが挙げられます。彼らの美しい肢、遠くを見渡す瞳という容姿を見れば、「なるほど」と、うなずけますね。ほかにはかつてロシア貴族の狼狩りにお供をしていたボルゾイ、ドッグレースで有名な俊足のグレーハウンドもサイトハウンド種です。
サイトハウンド種の犬は、運動量がたくさん必要な犬種です。また、狩猟犬らしくお散歩の途中などで何か興味のあるものを見つけると無我夢中になってしまうこともあるので、しっかりとコントロールをしてあげましょう。
2.優れた嗅覚を駆使して狩猟をする犬たち(セントハウンド種)
このグループの犬たちは、獲物の臭跡を執念深くたどって追いかけて、相手を疲れさせることで狩りを成功させるタイプの犬たちです。
ビーグル、バセットハウンドなどが代表選手です。野うさぎ猟をするハンターのお供をしていたビーグルは、遠吠えに似た独特の吠え声でハンターに獲物がいることを知らせたのでしょうね。ビーグルは集団での猟をしていたので他の犬とも仲良くできる社交的なタイプの犬だと言われています。
のんびりとした風貌が魅力的なバセットハウンドですが、この特徴が、獲物を油断させるのにたいへん有効であり、ハンターは獲物に狙いをつけやすかったようです。バセットという名前の由来はフランス語の「バス」=低い、から来ているともいわれています。
セントハウンド種の犬たちは、お散歩時に好きな匂いに執着して飼い主さんを手こずらせることが多いのですが、そんなときは、犬の気持ちを執着の対象からそらせるようにすると良いかもしれません。「あら、何かしら?」などと大げさに声がけをしてはいかがでしょうか。
3.地下に潜って獲物を追いかけるタイプの狩猟犬
ダックスがドイツ語で「アナグマ」の意味であることが示すように、地下で活動するアナグマや小型の動物を捕るため作られた狩猟犬がダックスフンドです。小型の動物を捕るために、スタンダードのダックスフンドから小さなサイズのダックスが作られました。胴が長く足が短いダックスフンドの体型は、巣穴を自由に動き回るのに適するように作られ、ハンターに獲物のありかを知らせるためにその場で吠えて知らせ続けていたのですね。
そもそも地下で活動していた狩猟犬がテリア種です。地下で仕事をするタイプのテリア種たちの活躍を受けて、その後、地上でも仕事をさせるために大きな体格の種類が作られていったとされています。
テリアの語源はラテン語で「地球」「大地」を表わすラテン語の「テラ」から発しているといわれています。「テリア」が、「土を掘るもの」という意味であることから分かるように、テリア種とは土のなかに巣を作るキツネやイタチ、アナグマ、野ネズミなどを追い出すために作り出された犬たちです。
テリア種の犬たちには、身体が小さく、たいへん可愛い犬種が多く含まれています。例えばヨークシャー・テリア、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ジャック・ラッセル・テリアなどもそうですが、「見た目の可愛さに惚れ込んで、飼ってみたら大変だった」という声があがることもテリア種には多いようです。
何といっても「獲物を狩る」という目的で作られたのですから、「動くものを追いかける」、「吠える」といった特徴を持ちあわせています。また歴史の中で鍛えられた体力を発散させるためには、豊富な運動量が必要であり、ことにジャック・ラッセル・テリアのエネルギッシュさに舌を巻く飼い主様は多いようです。
4.銃を使った猟のために働く犬たち(ガンドッグ)
獲物を見つけるとその場でじっとして動かないで獲物の場所を指し示す、つまりポイントと呼ばれる行動をするのがポインター種です。また、獲物を見つけると地面に伏せて報せる、つまりセットと呼ばれる行動をするのがセッター種です。
イングリッシュ・ポインター、アイリッシュ・セッター、イングリッシュ・セッターなどのガンドッグたちは、「じっとする」という忍耐強さと高い運動能力を兼ね備えているわけですから、家族に迎えたときには、この能力を発散させてあげるよう、ふんだんに運動をさせてあげましょう。
厚い被毛と高い活動性を有するスパニエル種は、木々の間をくぐり抜け、獲物を追い出すことで猟のお手伝いをしてきました。このスパニエル種の中には、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、アメリカン・コッカー・スパニエルなどが挙げられます。
銃で撃ち落された水鳥たちを上手に泳いで回収(レトリーブ)してくるのが、レトリーバー種たち、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、フラットコーテッド・レトリーバーなど、おなじみの犬たちです。
ガンドッグの仲間たちはどの犬種も賢い子たちばかりですから、「この子の安全を守り幸せにするのは私たち家族なんだ」という強い気持ちをもって、犬から一目置かれるような毅然とした態度で向き合っていきましょう。
5.羊や牛の群れの番をする犬たち(牧羊犬)
鋭い嗅覚、聴覚を利用して羊や牛といった家畜たちを監視したり、群れを柵の中へ追い込んだり、放したりする仕事を担っていたのが牧羊犬です。
牧羊犬の中には、おなじみのコリー、シェットランド・シープドッグ(シェルティー)、ボーダー・コリー、コーギーなどがいます。長い年月をかけて培われた優れた誘導能力や仕事への情熱は、今なお、お散歩中に動くものを追いかけようとする行動や音に対する敏感な行動として残っています。十分な運動で発散できていないことが原因の衝動的な行動が飼い主さんを困らせてしまうこともありますが、まずはしっかりとエネルギーを発散させてあげることが必要です。また日常の中で何か仕事をさせてあげることは、高い能力のある牧羊犬の犬には望ましいでしょう。「飼い主さんの役に立てて、嬉しい」という気持ちを持たせてあげるのですから、「スワレ」と飼い主さんが指示をして、従ったら褒める、ということであっても良いでしょう。
シェットランド・シープドッグ(シェルティー)の故郷であるシェットランド諸島は作物が育ちにくい島だったため、牧畜作業を手伝った犬も小さなサイズになったとも言われています。シェットランド・シープドッグ(シェルティー)は朗らかな性格の犬種ですが、物音に敏感で吠えやすいという特徴も備えています。この特徴を活かし、聴導犬として活躍している子もいます。
作業能力も学習能力も高いといわれているボーダー・コリーの、ボーダー(境界)という名前の由来は、イングランドとスコットランドの境界に生息していたからだといわれています。
コーギーちゃんはイギリス王室の犬として有名です。尻尾が長いコーギーちゃんはウエルシュ・コーギー・カーディガン、牛に踏まれてケガをすることがないように、もしくはキツネと間違えることがないように、などの理由により、歴史的に断尾をすることが一般的であるコーギーちゃんの方は、ウエルシュ・コーギー・ペンブロークです。イギリスのウエールズ地方で優秀な牛追い犬として活躍してきました。牛のかかとを攻撃することで、牛たちを集める仕事をこなしていましたので、今でもお家の中で飼い主さんのかかとが気になって仕方がない子も多いようです。
牧羊犬の犬たちは非常に作業能力に優れ頭が良くエネルギッシュです。
6.直接獲物に立ち向かい、倒すことで、猟の手伝いをしていた犬たち(直接狩猟犬)
直接獲物を倒さず飼い主さんに獲物の居場所を知らせたり、飼い主さんのところへ捕獲したものを持ち帰ったりする犬たちに対して、狩猟犬の中には直接獲物に立ち向かい、闘い倒すことが求められていた犬がいました。こういった犬たちには不屈の精神力が求められました。
小型の哺乳類や鳥の猟をしていた柴犬、大型獣の狩猟をしていた秋田犬、オオカミ狩りをしてきたボルゾイなどが挙げられます。
◇番犬、護衛犬、運搬犬、警察犬などのお仕事をする犬たち(使役犬)
このタイプに属する犬たちは、忠実で頑健な体を有する犬種が多いようです。スイスのアルプスで山岳救助犬として働いてきたセント・バーナード、シベリアの厳しい気候のなかでソリをひいてきたシベリアン・ハスキー、闘犬として作られてきた土佐犬など、さまざまなタイプの犬たちが含まれています。古代ローマの軍用犬としてアルプスを越えたタフさを誇るロットワイラーの能力は今日も受け継がれ、警察犬や警護犬として働いていますし、多くのジャーマン・シェパードが警察犬として活躍しています。
◇人が愛情を注ぎ可愛がるため作られてきた犬たち(トイグループ)
もともとは牧羊犬や狩猟犬などの犬が、身体のサイズが小さい、あるいは可愛いなどの理由から、人が愛情を注ぎ、飼い主さんの傍らで心を癒す犬たちになっていきました。
このタイプの犬たちは身体のサイズが小さな犬種の犬が多いのですが、小さな犬から見ると、人の身体は大きくて怖いと思うこともあるでしょう。このタイプの犬と上手にコミュニケーションを取るには、身体を撫でるとき、声をかけるとき、コミュニケーションをとるときなどには、しゃがむなどして、なるべく目線を近くしてから声をかけるようにしましょう。また上から覆いかぶさるようなお世話の仕方をしないように気をつけてあげることで、人が安心できる存在であるということを感じさせてあげましょう。可愛さに負けてしまって犬に主導権が移ってしまいがちですが、本当に我が子同然と考えて、時には心を鬼にすることも必要でしょう。
このグループの犬としていくつか代表的な犬種をご紹介すると、世界最小のチワワ、その昔は猟で活躍をしてきたトイ・プードル、祖先は牛追い犬であったが小型化されてからはその資質を失ったフレンチ・ブルドッグ、かつては狩猟犬として活躍してきたミニチュア・シュナウザーなど、いずれもお馴染みの犬ばかりです。
他にも蝶が羽を広げているところに似ていることから、フランス語で蝶を表すパピヨンから名づけられたパピヨン、紀元前1,500年頃にはすでに地中海のマルタ島に持ち込まれていたとされる「犬の貴婦人」とも呼ばれるマルチーズ、中国では「ライオンのような犬」と呼ばれていた歩くぬいぐるみのようなシー・ズー、牛や羊を集める番犬が東欧のポメラニアン地方で小型化していったといわれるポメラニアンなど、どの犬種もそれぞれの豊かな魅力にはため息が出そうです。
ただし、トイグループに属しているからお世話やしつけが簡単だということは一概にはいえないようです。その子が持ち合わせるエネルギーを発散させてあげるために、お散歩が重要なのは仕事を持っていた犬種たちと同じですし、可愛いからといって犬の要求を聞いていたら、飼い主さんにあるのが望ましい主導権が犬のほうへ移ってしまうことになるのも同様です。可愛さに負けてしまわず、人間社会の中で楽しく快適に共存できるように、良い事と悪い事を、心をこめて教えてあげましょう。
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