生きとし生けるものすべてにとって、なくてはならぬ排泄が「思うようにいかない」ということは、どうぶつにとっても大きなストレスになります。
人の5倍ほどの速さで時の流れを経験し、最後の力を振り絞り、命の終着駅に至る道を歩く我が子の日常を支え、少しでも心穏やかで苦痛の少ない生活を過ごさせてあげられるように、排泄の介助について考えてみましょう。
自分でトイレまで行き排泄ができる犬や猫の場合
トイレの環境を整えてあげて、なるべく体に負担なく楽に排泄できるようにサポートをしてあげましょう。
☆トイレは行き易い場所に!ケガをしないように工夫をする!
我が子が、楽に、スムーズにトイレに行くことができているか見直してみましょう。
トイレまでの間に障害となるものがあれば取り除いていただき、いつも過ごす場所とトイレが離れているようであれば、近い所に用意してあげましょう。いつも寝ている場所の近くなども良いですね。
また、腰が弱ってきても滑らずに済むように、トイレへの通り道や足を置く場所など、適切な所に滑り止め効果のあるマットなどを敷いてあげると良いでしょう。
段差はケガの原因となることが多いので、スロープを用意したり、ホームセンターなどで販売されている物を利用したりして、段差がない状態を作ってあげるのが理想です。
ただし、犬や猫にとって、トイレ環境の急激な変化は混乱を招き、逆にストレスとなってしまう場合もあります。位置を変えるのであれば、戸惑わない程度に少しずつ、今ある所からずらしながら移動させるというように、様子をみながら少しずつ調整するようにしましょう。
特に猫は犬以上に環境の変化に敏感ですし、トイレの好みがはっきりとしています。例えば、猫用のトイレは、安全面からはトレーの縁が高いものは避けたほうが良いのですが、工夫して使い易くしてあげたつもりでも嫌いなトイレになり、排泄そのものをしなくなってしまうと大変です。猫の好みを第一に考えて、安全なトイレ環境を作ってあげましょう。
外でしか排泄をしない犬の場合
寒い冬や暑い夏に温度差の大きい家の中と外を行き来することは、ターミナル期の犬の体に負担をかけてしまう可能性があります。また、今後、犬が自分でトイレまで行くことが難しくなることも考えておかなくてはいけません。特に大型、超大型の犬をトイレのために屋外に連れていくということは、飼い主さんにとっても大変です。
我が家の愛犬が「シニア」と呼ばれる時期に入った段階、あるいは体調を崩しやすくなったら、なるべく早い段階で、室内でも排泄できる習慣をつけることが望ましいでしょう。ただ、外でしか排泄をしない、というのは、犬の習性からすると、ごくごく自然なことでもあり、「お家の中では絶対にしない」という犬をお家の中でするように教えることには、かなりの困難が伴うことも確かです。まずは室内のトイレへ誘導をすることから始めてみましょう。
犬は幼いときにしていた経験を結構覚えているものです。「試してみる」というお気持ちで、以前トイレが置いてあった場所にもう一度トイレを用意してみて、「今なら出るかも」というタイミングで誘導してみてはいかがでしょうか。偶然であっても、「出来たら褒めてもらえる」という体験を通して、「ここでしても良いのだよ」ということを伝えてあげてください。
どうしても外でなくてはしない子も多くいます。このような場合、犬にとって「外だ」と認識しやすい場所、たとえば廊下の端やお宅の軒下などにトイレを用意してみると意外とスムーズにいくかもしれません。外に連れていくよりは飼い主さんへの負担が少なく、連れていきやすい、このような場所にトイレを用意してみても良いでしょう。
足腰が弱ってきて排泄のスタイルが上手くとれなくなった犬であれば、状況に応じて、腰のあたりをタオルやハーネスなどで吊り上げるような形で支えてあげましょう。
自分で行くことはできないけれども、自力での排泄はできる犬や猫の場合
自分でトイレまで移動することはできないけれども自力で排泄ができる場合は、時間を見計らってトイレに連れていき、助けてあげながら排泄をさせてあげられたら理想的ですね。ただ、大きな犬であればトイレまで連れて行くこと自体一苦労ということも多く、飼い主さんにも時間的な制約がありますし、現実には思うように連れていけないことも多いでしょう。
そのような場合には、寝たまま排泄をしても大丈夫なように、人間の赤ちゃん用のおねしょシーツとトイレシーツを組み合わせて体の下に敷いたり、紙オムツを利用したりしましょう。おねしょシーツには使い捨てタイプの物も販売されていますので、状況に応じて使い分けても良いでしょう。紙オムツはペット用のものもありますが、シッポに当たる部分に穴をあけて人間の赤ちゃん用の紙オムツで代用することもできます。犬も猫も排泄物で体が汚れることを嫌いますので、排泄後は、なるべく早く紙オムツやトイレシーツを取り換えていただき、体を清潔に保つようにしてあげましょう。排泄後の処理を楽にして衛生的に生活するためには、お尻周りの毛を短くカットしておくとよろしいでしょう。また、シッポの毛の長い子の場合は粘着包帯などでシッポを巻いておくのも良いでしょう。
自力での排泄ができない場合
ペットシーツや紙オムツなどにオシッコがちゃんと出ているように見える場合でも、実は自力排尿が上手くできておらず、膀胱の中はオシッコでパンパンになって、ためきれずにオシッコが少しずつ漏れ出ているというような場合もあります。あまりオシッコをたくさんためすぎて膀胱が拡張してしまうと、膀胱の筋肉がダメージを受けて、「膀胱アトニー」という状態になってしまうことがあります。
これは、ゴム風船を大きく膨らました後に空気を抜いても、膨らます前のゴム風船のようなハリのある状態に戻らないのと同様に、排尿後も膀胱の筋肉が収縮しきれなくなって、オシッコを最後まできちんと出し切ることが難しくなってしまう状態です。このような状態になると、排尿後も常に膀胱の中に尿が残っている状態になり、膀胱炎などのトラブルが起こりやすくなりますので、自力排尿がちゃんとできているかをこまめにチェックすることが重要です。上手く出来ていないようであれば、主治医の先生に適切な指示を仰ぎ、適切な間隔で排泄の介助を行うようにしましょう。
排泄の介助
状況に応じて次のようなことを行います。
1.圧迫排尿
下腹部の膀胱にあたる部分を、外から手で圧迫することで排尿させる方法です。膀胱の位置の感覚がつかめるまで戸惑うこともあるかもしれませんが、何度か練習すると飼い主さんでもお家でできるようになります。初めは動物病院で指導してもらいましょう。
他の腹腔内臓器を傷つけるのを防ぐためにも、圧迫排尿を行う時には必ず膀胱の位置を確認してから適切な位置を圧迫するようにしましょう。また、膀胱内に尿が残っていると細菌感染などを起こしやすくなりますので、できる範囲で尿を出し切るようにしましょう。膀胱がパンパンに膨らんでいる時や出づらい時に無理をして圧迫すると、膀胱破裂の危険性が生じます。そのようなときにはすぐに受診するようにしましょう。
2.カテーテル排尿
尿道や膀胱などに問題があったり、圧迫排尿で排泄させることが難しい場合には、尿道にカテーテルを挿入し排尿させます。カテーテル排尿には、排尿のたびに毎回カテーテルを挿入する方法と、バルーンカテーテルという専用のカテーテルを膀胱から尿道内に留置して、そこから排尿させる方法があります。
男の子の犬の場合は尿道に問題がなければ比較的簡単にカテーテル挿入ができますので、家で飼い主さんにしていただく場合もあります。一方で、女の子の犬の場合は尿道が分かりづらく、挿入も難しいので、病院でバルーンカテーテルなどを留置し、自宅では定期的な採尿のみを行ってもらうことが多いようです。
カテーテルを挿入したり留置したりすることは、尿路感染を引き起こしやすいため、器具の取扱いには十分注意し、尿検査などを度々行って感染が起こっていないかのチェックを行う必要があります。
3.排便の介助
足腰が弱って運動量が減ったり寝たきりになったりすると、どうしても腸の動きも悪くなり、便秘がちになりやすくなります。水分を十分に摂らせ、腸内細菌叢のバランスを整える乳酸菌などのサプリメントを利用していただいても良いでしょう。腸の運動を促すように、無理のない範囲で運動をさせることも 大切です。嫌がらないでリラックスできるようであれば、下腹を優しく、「のの字」を描くようにマッサージをしてあげたり、肛門の周りをそっとマッサージしてあげても良いですね。
便秘になり、便が硬くなってしまうと出すのが大変になってしまいますので、日頃から排便の回数や量をきちんとチェックをするようにして、出にくそうな様子がみられたら、早めに動物病院で相談をするようにしましょう。
自力での排泄が難しい場合には、直腸や肛門の周囲を圧迫して排便を介助したり、浣腸をしたりと いったケアが必要となる場合もあります。状態に応じて、動物病院で指導してもらうようにしましょう。
排泄を失敗してしまったり、長年の排泄のスタイルで思うように排泄できないことは、どうぶつにとっても心の負担になりがちです。どのような方法であっても排泄できたら、「オシッコ出てよかったね」、「すっきりして気持ちいいね」など、排泄ができたことを一緒に喜んであげるようにしましょう。
飼い主さんにとって、大切な家族である犬や猫のターミナル期を支えるということは、心の面でも体の面でも負担は大きく、辛い山を幾つも乗り越えるたいへんな道のりでもあると思います。飼い主さんがゆっくりと心や体をいたわる時間を作っていただくためにも、ぜひ、動物病院さんなどにご相談いただければと思います。
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