言葉で症状を伝えることのできないどうぶつの体調を把握する上で、動物病院で行われる検査は重要な役割を果たします。
特に、血液は体内でのさまざまな重要な機能を担っていますので、疾病特有の変動が生じやすく、どうぶつの体内で起こっていることを把握する判断材料となります。
たいへんよく行われる検査が一般血液検査(CBC)や血液生化学検査ですが、これ以外にも血液を調べることでわかることが、たくさんあります。
特殊な血液生化学検査
一般的に行われる血液生化学検査以外にも、体内で起きている問題点を詳しく絞り込むために行う特殊な血液生化学検査があります。検査センターなどへの外注検査となることが一般的です。
1.TBA(総胆汁酸)
肝臓の肝細胞でコレステロールからつくられた胆汁酸は、胆汁として胆嚢に入り濃縮されます。
胆汁は摂食にともない腸管内に排出され、脂肪の消化吸収を助けますが、その後、腸管から再吸収され、門脈を通り肝臓に戻ります(腸肝循環)。
通常体内を循環する血液中には胆汁酸は微量しか含まれませんが、門脈体循環シャントがあったり、胆汁うっ滞や胆管閉塞により胆汁の排泄が滞っていたり、あるいは肝炎や肝硬変などがある場合には、この値が上昇します。
2.膵特異的リパーゼ
リパーゼは膵臓から分泌される消化酵素で、中性脂肪(トリグリセライド)をグリセリンと脂肪酸に分解します。
膵炎により膵臓の細胞が障害を受けると血液中のリパーゼが増えるため、膵炎の診断に利用されます。
3.TLI(トリプシン様免疫活性)
トリプシンは膵臓から分泌される消化酵素です。膵臓からトリプシノゲンが分泌され、小腸内で活性化されてトリプシンになります。 膵外分泌不全ではこの値が下がり、膵炎では上がります。
4.フルクトサミン/糖化ヘモグロビン(グリコヘモグロビン)
フルクトサミンも糖化ヘモグロビン(グリコヘモグロビン)も血液中の蛋白と糖分が結びついたもので、ともに糖尿病の治療における血糖コントロールの指標に利用されます。
フルクトサミン値は、過去2〜3週間の血糖値の平均を反映、糖化ヘモグロビンは、犬では過去1〜3ヶ月間、猫では1〜2ヶ月間の血糖値の平均を反映しています。
血液凝固系検査
通常、体のどこかに出血が起こると、血液中に含まれる血小板や多数の血液凝固因子により、出血を止めるための仕組み(血液凝固系)が働きます。
手術時の出血のリスクを評価したり、出血傾向や貧血などが見られたりする場合には、血液凝固系がきちんと働いているかどうかの検査を行います。
検査項目には、PT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、Fib(フィブリノーゲン濃度)などがあります。
内分泌学的検査
内分泌器官である甲状腺からはサイロキシンとカルシトシンというホルモンが、甲状腺の表面の上皮小体(副甲状腺)からは上皮小体ホルモンが分泌されています。腎臓の上部にある副腎皮質からは副腎皮質ホルモン(コルチゾン)が作られていますが、これらはステロイドホルモンとも呼ばれます。
副腎髄質からはノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、エピネフリン(アドレナリン)が分泌されています。
また、膵臓の中にあるホルモンを分泌する膵島(ランゲルハウス島)からはインスリン、グルカゴン、ソマトスタチンが分泌されています。
脳底部にある下垂体からは成長ホルモン、卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)、男性ホルモン(テストステロン)、プロラクチンなど分泌されています。
これらのホルモン(内分泌物)は特定の内分泌腺や神経細胞で産生され、血液を介して、情報を標的の細胞へ伝達や機能の調節をしますが、
血液中のホルモン(内分泌物)の値を測定することで、内分泌系の疾患の有無を調べることができます。検査項目には次のようなものがあります。
1.甲状腺機能亢進症/低下症の検査
総サイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3)、遊離サイロキシン(FT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)
2.副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)/低下症(アジソン病)の検査
コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
3.糖尿病/インスリノーマ(膵臓の内分泌腫瘍)の検査
インスリン
4.上皮小体機能亢進症/低下症の検査
上皮小体ホルモン(PTH)
5.性ホルモンの検査
テストステロン(男性ホルモン)、エストラジオール(エストロゲン:女性ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)
感染症の検査
血液中の抗原(微生物や寄生虫そのもの)の有無や抗体(微生物や寄生虫に感染した時に免疫反応により体内につくられる物質)の有無を調べることで感染しているどうかを知ることができます。
また、ワクチンの接種後に抗体価(体内に産生された抗体の量)を調べることで、ワクチンの有効性の確認をすることもできます。
血液検査で調べることのできる感染症には次のようなものがあります。
犬 | 猫 |
犬ジステンバーグウイルス(抗体) 犬伝染性肝炎ウイルス(抗体) 犬アデノ2型ウイルス(抗体) 犬パラインフルエンザウイルス(抗体) 犬コロナウイルス(抗体) 犬パルボウイルス(抗体) レプトスピラ(抗体・遺伝子) ブルセラカニス(抗体) ライム病(抗体) バベシア(抗原) 犬糸状虫(抗原) トキソプラスマ(抗原) |
猫鼻気管炎ウイルス(抗体) 猫汎白血球減少症ウイルス(抗体) 猫カリシウイルス(抗体) 猫白血病ウイルス(抗原) 猫免疫不全ウイルス(抗体・遺伝子) 猫コロナウイルス(抗体) 猫クラミジア(抗体) 猫ヘモバルトネラ(抗原) 猫糸状虫(抗体・抗原) トキソプラズマ(抗体) |
自己免疫検査
免疫系は本来、体内に入ってきた異物を認識して排除するための機構ですが、何らかの原因で、正常な自分自身の細胞や組織に対しても免疫系が反応して攻撃をしてしまうことがあります。そのような、自分自身を構成する正常な細胞や組織を抗原としてしまい、これに対して抗体(※1)を作る病気を総称して自己免疫疾患、あるいは免疫介在性疾患と呼びます。
自己免疫疾患の原因となる免疫系の異常(自己抗体(※2))を検出する自己免疫検査には次のようなものがあります。
※1免疫システムでは、細菌やウイルス、カビ、がん細胞などを抗原として認識し、免疫グロブリン(IgG)ともいわれる抗体が作られます。抗体は体内に侵入した異物を認識して免疫応答を起こさせる役割を担っています。
※2異物ではなく自分の細胞や組織に対して作られてしまった抗体を自己抗体といいます。
1.クームス試験(抗グロブリン試験)
赤血球に結合した抗体の有無を調べる検査です。自己免疫性溶血性貧血などのときに陽性となります。
2.抗核抗体検査(ANA検査)
細胞の核成分に対する自己抗体(抗核抗体)の有無を調べる検査です。
抗核抗体は、自分の細胞の核と反応して免疫複合体という物質を作り、全身の皮膚や関節、血管、腎臓などに影響を及ぼし、その結果、様々な症状が引き起こされます。全身性エリテマトーデス(全身性紅斑性狼瘡:SLE)、リウマチ様関節炎などのときに陽性となります。
3.アセチルコリンレセプター抗体検査
神経から筋肉へ情報を伝達する物質であるアセチルコリンのレセプター(受容体)に対する抗体の有無を調べる検査で、筋無力症の診断の時に行います。筋無力症では、この抗体が存在するために神経から筋肉への情報伝達ができず、筋肉が正常に働かなくなります。
4.犬リウマチ因子
犬リウマチ因子は、変性した免疫グロブリン(IgG)に対する自己抗体です。慢性関節性リウマチや全身性エリテマトーデス(全身性紅斑性狼瘡:SLE)などのときに陽性となります。
5.咀嚼筋炎抗体(そしゃくきんえんこうたい)
咀嚼筋(側頭筋や咬筋などの咀嚼に関与する筋肉)に対する自己抗体を調べます。この抗体が存在すると咀嚼筋に対する自己免疫反応により咀嚼筋炎が起こります。
アレルギー検査
アレルゲン(アレルギーを引き起こす原因となる物質)の特定のためには、パッチテスト、皮内反応、血液検査などの様々な検査方法があります。
血液で調べることのできるアレルギー検査には次のようなものがあります。
1.アレルギーの強度を調べる検査
アレルギー反応の発生時に血液中に増えるリンパ球を検出することで、アレルギー反応が起こっているかどうかを調べます。数値で表すことにより、反応の強さを調べることができます。現在起こっている症状がアレルギー反応によるものかを確認、あるいは治療の効果や適切性を確認する際にも行います。
2.IgE抗体を調べる検査
アレルゲンに対して特異的にみられる血液中のIgE抗体の量を調べることで、何に対してアレルギーを持っているかを調べます。
環境中のアレルゲン(花粉やハウスダストなど)や食物アレルゲンを同定するために行います。
なお、IgE抗体の上昇がはっきりとあらわれないタイプのアレルギーについては用いることができません。
3.リンパ球反応検査
食物タンパクに対するアレルギー反応は、IgE抗体を介する反応の他に、リンパ球を介したアレルギー反応も関与している場合があります。
リンパ球を介した反応を調べることにより食物アレルゲンの同定を行うことができます。
薬物分析検査
治療で利用する薬が適正量で使用されているかを評価し、中毒や副作用を防ぐために、血中の薬物の濃度を測定します。
獣医療において血中濃度の測定が有効な薬物には次のようなものが挙げられます。
・フェノバルビタール(てんかん治療薬) ・臭化カリウム(てんかん治療薬) ・ゾニサミド(てんかん治療薬) ・ジゴキシン(強心薬)
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※個別のご相談をいただいても、ご回答にはお時間を頂戴する場合がございます。どうぶつに異常がみられる際は、時間が経つにつれて状態が悪化してしまうこともございますので、お早目にかかりつけの動物病院にご相談ください。
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血液中の酸素濃度低下は、呼吸器疾患により生じることが多いです。また、白血球が減少する場合ですが、ウィルス感染・骨髄異形成症候群・再生不良性貧血などの血液疾患や腫瘍、投薬による副作用の場合もあります。ガンがどうかは他の検査と合わせて総合的に判断いたしますので、一度かかりつけの先生にご相談いただくことをお勧めします。